遺してくれたもの

あの夜はね、気が動転してて
hくんを助けることでいっぱいだったんだ。


だから部屋の中にあるものを見る時間もなくて
hくんからの最後の手紙とか、hのスマホを警察から長男に引き渡されて…。


私宛の手紙は、まるで今生の別れではないように
「k(hの友人)に連絡してね。hの母です、っていえばわかってくれるから。
それと、kに「今までありがとう」って伝えてね。」


家族宛ての手紙は、猫たちの飼育で気をつけることや、「自分が旅立つのは両親のせいではない、今まで育ててくれてありがとう。」


兄貴宛ての手紙には「母ちゃんをよろしくね。これからの人生を楽しんで。」


離婚してるのに、まるでこのあと、私と猫2匹が父親と長男の元に戻るのが前提な内容で。
身を裂かれるくらい悲しかったけれど、仕事も辞めてしまったけれど、たぶんhくんが予測していたとおりに、暮らしていた部屋を出て、戻ってきたけれど。


年明けから父親の会社を手伝うことになる予定だよ。
でね、hくんは暮らしていた部屋が空いていることを心配してると思うのだけれど、
いろいろ事情があってね、おばあちゃんが住むことになりそうだよ。
よかった。
あの夜を思い出して辛くてあまり行けなかったけれど、明るいおばあちゃんが住んでくれたら、私もちょくちょく遊びに行けるし姑孝行できるし。
hくんも一緒に遊びに行こうね。
私も一生懸命働いて、ローン完済して、いつか私がおばあちゃんになったらまた、hと暮らした部屋で生活したい、って思えるようになったよ。


正直にいうと、今でもhの元へ行きたいって衝動的に思うけれど、
生きていかなくちゃいけないよね。


ひとつだけ教えてほしいの。
最後の空白の4時間、何があったの?
誰かと電話か何かで話をしたの?
たまに深刻な雰囲気で敬語で電話していた相手は誰なの?
何か、脅されていたの?そんなことはない?
当日昼下がりに、hがsnsでたわいない会話をした友達もね「最後に話をしたのは誰だったのか、きっと何かがあったはず。」と強く疑問に思ったらしいの。


いつか…夢でもいいから、教えてね。